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9. β放射性同位体定量測定法としてのラジオルミノグラフィーの再評価

はじめに

ラジオルミノグラフィー(RLG)は,放射線エネルギー分布画像を描く手法として開発された技術であり,その接尾語から“放射能を定量する”という考えは浮かばなかったのも致し方ないことであった.また,液シンでは光電子増倍管,波高選別器,同時計数回路など複雑な機構が組み込まれているが,RLGは,放射線エネルギー分布をイメージングプレート(IP)に写し取って,バイオイメージアナライザー(BAS)で読取るという極めて簡単な機構である.こんな簡単な機構で放射能を精確に測れるとは思いつかないことである. Simple is best.筆者は,測定原理,測定精度,測定経費,環境への負荷などの観点からRLGこそ最も理想的なβ放射性同位体の定量測定法であることを指摘する.RLGはradiolumino counter またはPSL counterと改名した方が良いと考える.
β放射性同位体の定量測定には約半世紀に渡って液シンが専ら使われてきた.RLGが液シンに代わる方法として採用されるためには,感度とバックグラウンド値(BG)の面均一性を試験し,不均一性があるならば,それを校正する方法を開発しなければならない.Pm-147平面線源に露光したIPを使って調べたところ,BASのPSL読取りには不均一性が見られるが(Fig.1A),この不均一性はPm-147平面線源に露光したIPで校正でき,IP全面に渡って0.5%の高精度でPSLを読取ることができることが分かった(Fig.1B-D).BGにも位置依存性が見られるが,校正できる(Fig.2)こと,また関心領域(region of interest, ROI)そのもののBGを求める(Fig.3)手法を提案した.自己吸収は,液シンにおけるクエンチング並の影響を及ぼす(Fig.4).これは,必要ならば内部標準法で補正できる.
低レベル放射能の測定精度は,検出効率(E)の1乗,計測時間とBGの1/2乗に比例して向上する.RLGおけるEは控え目に見積もっても液シンの1/10である.BGは検出部の体積に比例する.RLGにおいて検出部の体積は,ROIの面積とIPにおける感光体層の厚みの積で与えられる.ROIが1cm2の場合,検出部の体積は0.01ccとなり,これは液シンに比べて約1/1000である.露光時間は普通1-3日間で,液シンの計数時間の約1000倍である.したがって,大雑把に言って,RLGでは液シンで100分間計数した精度が得られるはずである.両者の検出限界を比較したデータ(Fig.5)は,これが決して机上の空論ではないことを証明している.
本章では,RLGを放射能計数装置の観点から見直した.特に断らない限り,測定核種はC-14である.検出効率を論ずるために必要な,IPの各層及び全体の厚みあげておく.保護層9μm(1.26mg/cm2),感光体層115μm(37.95mg/cm2),全体431μm(93.7/cm2).検出量子効率は8-20keVのX線に対して80%以上といわれている.感光体層の厚みがC-14β線(最大飛程25mg/cm2)の検出にとって必要にして十分な値であることに注意しよう.IPやBASは,例えば液シンにおける波高選別器や同時計数回路のような,放射線のエネルギーを選別し,BGを下げる機構を全く備えていないけれども,感光体層の厚みが軟β放射線の最大飛程になっていることが,BGを小さくし,重ね合せ法によってROI自身の BGを直接評価する方法を可能にしている.

 

はじめに

9.1 何故に主役の交代か?
液シンの問題点, 放射能の定量測定法としてのラジオルミノグラフィー, RLGの利点, RLGの弱点

9.2 RLGで放射能を定量測定するためには
面均一性の校正, BGの問題, BGの統計変動, ROI自身のBGを評価できる重ね合せ法, 自己吸収の補正, ユーザー側バリデーション, 感度均一性試験, IPの汚染管理

9.3 RLGと液シンの比較    

9.4 測定試料の調製
ろ紙にスポットする方法, マイクロプレートラジオルミノグラフィー

おわりに


参考文献


   
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