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9. β放射性同位体定量測定法としてのラジオルミノグラフィーの再評価

9.1 何故に主役の交代か?

 液シンの問題点
約半世紀に渡り,C-14は専ら液シンで測定されてきたが,この方法には多くの問題がある.高価なシンチレーターとバイアルを必要とするばかりでなく,測定に伴って出る大量の放射性廃棄物がRI管理責任者の頭痛の種になっている.特に,ガラスバイアルは保管廃棄しかなく,次世代に渡る負債を蓄積し続けている.また,液シン廃液の処理も難題である.シンチレーターとバイアルのコスト及び測定後の廃棄物の処理費用を合算すると,測定価格は1試料当たり200-300円に達する.

 放射能の定量測定法としてのRLG
RLGの利点
測定コストが安く,環境に優しい測定法である.
IPに残っている放射線画像は,可視光線に曝すことによって完全に消去できる.IPは7万円/1枚で高価なように思われるが,RI汚染と湿気に注意して使えば,IPは何十回も反復使用できる.また.一度に多数(マイクロプレート法では288個)の試料が測定できるので,1試料当たりの測定コストは液シンに比べてけた違いに安価になる.RLGは,何の化学物質も消費しないで放射能を測定できる,環境に優しい放射能測定法である.非破壊測定で,試料は回収できる.マイクロプレートは可燃廃棄物として処理できるので廃棄手数料は安価である.
低レベル放射能の測定に対して極めて優れた特性を持っている.
低レベル放射能の測定精度は, Eの1乗,計測時間とBGの1/2乗に比例して向上する.液シンにおけるEは“計数率÷壊変率”で与えられる.RLGにおけるEは“IPに入射した放射線エネルギー÷全放射線エネルギー”と定義して論を進める.前者はdigital量,後者はanalog量で,両者におけるEを厳密に比較することはできないが,あえて比較してみる.液シンにおけるEはクエンチングによって大きく(0.5-1.0)左右される.RLGにおけるEは,幾何学的効率(Fg),測定試料とIPの間に存在する物質(IPのRI汚染防止のために試料を覆うプラスチック薄膜,空気層など)による吸収(Fab)及び試料の自己吸収(Fs.ab)が関わってくる.薄層クロマトプレート(TLC)や全身オートラジオグラフィー切片(WBA)のFgは0.5,後述のマイクロプレートのそれは0.14である.実際には,この他にIPの感光体層を保護している薄膜による吸収損失も加わる.控え目に見積もって,RLGにおけるEは液シンの1/10である.
液シンでは,所定時間内に処理しなければならない試料数の要求から,計数時間は長くても10分である. RLGにおける露光時間は任意に設定でき,普通1-3日,すなわち液シンの1000倍である.結露に対する配慮をして低温露光(fading が押さえられる)すれば,露光時間を更に延伸できる.
RLGのBGは相対的に低い.BGは検出部の体積に比例する.RLGにおける検出部の体積(=ROIの面積×IPの感光体層の厚み)は液シン(10ml)の1/1000のオーダーで,それだけ相対的に低いBG下で測定できる.また,露光容器壁を厚くすることによって容易にBGを下げることもできる.(3.ラジオルミノグラフィーによる放射能の定量測定 3.3 バックグラウンド値
RLGにおけるEの低さは,桁違いに長い露光時間とBGの低さによって完全に帳消しされ,RLGは低レベル放射能の測定に対して極めて優れた特性を持っていることが理解できよう.この推論の正しさは,後に詳述するように,RLG(20 mm真鍮遮蔽,72時間露光)のBG/100 mm2は,液シンで100分計数した精度で評価できる(Fig.2)ことや,“検出限界はBGの3SDとする”という,同じ基準で求めたRLGの検出限界(25mm2当たり)は,低バック液シンの100分計数より優れているという実験結果(Fig.5)からも支持される.

 RLGの弱点
液シンはあらゆる種類の試料に適用できる.これに対して,RLGは揮発性物質には適用できない,また,溶液にして均一に分散させる手段がない試料(例えば,糞,臓器など)には適用できない.試料サイズが小さい.液シンの試料サイズは大きく,水溶液なら数mlであるが,RLGで測定可能な液量はおおよそこの1/10である.結局,RLGは,C-14を投与した実験動物のプラズマや尿,ラジオHPLCの溶離液のような,多数の液体状試料を測る手段としてその利点を発揮することができる.この場合,試料数が多くなればなるほどRLGは有利になる.

   
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