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5. 極低レベル C-14 標識薬物投与実験

5.1 低レベル C-14 の測定

 低レベル C-14標識薬物ヒト投与実験では,我々が普通扱っている試料よりも 1 桁低い放射能の測定が問題になるので,まず低放射能の測定法を解説する.
 低レベル放射能計数装置の評価には,次式で与えられるfigure of merit(FM)値が用いられている.この式で Sは真の計数率, B は BG 計数率である.
FM=S/(Bの1/2 乗)
 S は装置の計数効率 E(cpm/dpm)と試料のサイズ M(g または ml),試料の比放射能(dpm/g またはml)の積で表されるから,同一試料については
FM=EM/(Bの1/2 乗)
を比較すれば良いことになる.この式は,低レベル放射能の測定では BG をできるだけ低くし,計数効率をできるだけ高く,試料サイズをできるだけ大きくすることが有利であることを教えている.
 低レベル放射能の測定には逆同時計数法が使われる.その原理は,測定用計数管(センター計数管)を遮蔽用計数管(ガード計数管)で取巻き,両計数管を同時に作動させた信号をカットするよう結線(逆同時計数回路)することにある.低レベル C-14 の測定法として,全炭素を二酸化炭素にして逆同時計数回路付き気相計数管で測定する方法はC-14年代測定法として長年用いられ,考古学に大きな貢献をしてきたが,最近では試料量が遥かに少なくてすむAMSに代わった.
 普通のLSC では,20-30 cpm のBG計数を与える.例えば,0.01 Bq の C-14 を検出するには約1000分の計数が必要になる.これでは実用的とはいえない.1970年代になると,プラスチックシンチレーターをガード計数管として用いる low BG LSC が開発された(2).有効体積2 lの気相計数管では,1気圧で作動させた場合,封入できる気体の量はせいぜい0.1 mole に過ぎない.LSC ではベンゼンなどに変換すれば 1 mole を測ることも可能である.すなわち, LSC では試料量を大きくとれることが利点である.実際に,全炭素をベンゼンに変換する装置も市販されていたことがある.
 LSCの低BG化のためのもう1つの改良は,センター計数管に3 本の光電子増倍管を使うことによってaccidental coincidence 由来のBG計数を更に低くしていることである.理論的なことは1. 基礎講座Q and Aで解説した.
 今回,試験的に使ったALOKA 社のlow BG LSC(LSC-LB5)では,3本の光電子増倍管を同時計数回路で結線したセンター計数管とそれを取り巻くプラスチック蛍光体(ガード計数管)からなり,両者は逆同時計数回路で結ばれている.これらの機構によって BG 計数を著しく低下させることができる.
 検出限界は,BG cpm の 3 SD を与える放射能として論を進める.これは,いささか厳しい基準である.検出限界は,BG cpm 及び計数時間の 2 分の1乗,計数効率の1乗に比例して向上する.具体的にいうと,BG cpm をできるだけ低くし,計数時間を長くすること,計数効率の高いシンチレーターを使うことである

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