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6.定量全身オートラジオグラフィー 

6.3 定量WBAの実験例

 Pm-147平面線源(200×400 mm,作成時0.4 G Bq Pm-147)によりWBA切片各臓器の厚みを測定して行った定量WBAの一例を次に述べる.
 ラットに0.6 M Bq [C-14]sucroseを静注2分後に犠牲にし,30μm,60μm(3枚),及び90μm切片を作成した.Fig. 6A は60μmで作成した切片の従来のWBA,Fig. 6Bはその厚み画像である.Fig. 6Cは自己吸収補正曲線及び放射能検量線を作成するために置いた試料の画像である.A,Bの画像が左右対称になっているのは,C-14β線の影響をカットするために厚み画像は切片を裏返してとっているからである.
 Fig. 6C 中の丸1-8は自己吸収補正曲線作成のために,C-14水溶液をいずれも10 Bqスポットし,乾燥して得られた画像である.丸1,2,3,4はそれぞれプラスチックシート(乾燥時の厚み0 mg/cm2),ろ紙(8.0 mg/cm2),障子紙(6.5 mg/cm2),ティッシュペーパー(1.4 mg/cm2)の画像である.5-8はスポットの中心が同じ位置にくるようにティッシュペーパーにスポットし,乾燥後2枚(トータルで2.8 mg/cm2)-5枚(7.0 mg/cm2)を重ねて露光して得られた画像である.丸1に対するPSL比から丸2-8におけるFs.abが算出された.自己吸収補正曲線は,厚みの異なる数種類の紙を使っても,同じ厚みの紙を重ね合わせても作成できる.吸収係数は常数であるので,RLGで求めたC-14の吸収係数から作図しても,これにほぼ重なる曲線が得られることは当然である.
 Fig. 6C 中の丸9-13は,既知量のC-14をティッシュペーパーにスポットし,乾燥することにより作成した標準試料の画像である.これらより放射能検量線が作成される.言うまでもなく,スポットした放射能とPSLの間には極めて高い直線性が認められた.
 WBAで市販の標準線源のセットを使うことは次の2つの理由からnot recommendableであると考える.SI基本単位の1つであるBqは,kg,m,sと異なって精度よく測ることは難しい単位である.したがって,自分の液シンで検量した標準を使う方が賢明である.また,標準線源(多くは無限厚み)とWBA切片各臓器のFs.abが異なるので比較にならない.


Fig. 6 Images obtained in the proposed quantitative WBA

 

 ここで使ったティッシュペーパーの厚みは,60μmで作成されたWBA切片における多くの臓器の厚みのほぼ中央値に相当すること(Fig. 5)は注目すべきことである.このことは,このティッシュペーパーにスポットされたC-14は,60μmで作成されたWBA切片の主要臓器とほぼ同程度の自己吸収を受けていること,したがってこれをベースにすれば各臓器切片の放射能(Bq)の近似値が求められることを意味している.
 Table 2は,肝臓について実験結果をまとめたものである.各ステップにおける3つの厚みの値を見てみよう.従来の方法で得られる,net PSL/mm2 (Step 1)は切片厚み(m)に比例していない.これは自己吸収のためである.それに対して,Pm-147平面線源によるラジオグラフィーで求めた厚み(mg/cm2,Step 2)でFs.abを補正して求めたBq/mm2(Step 3)は切片厚み(m)に比例しており,しかもその値は,各切片から該当部分を切り取ってオキシダイザーで燃焼し,液シンで計数して得た値(Step 4)とよく一致している.標準試料と比較測定し,Fs.abを補正することによって単位がPSL/mm2からBq/mm2に正確に転換されていることに注意して頂きたい.長年,次元の異なる摘出臓器計数法とWBA-RLGを無理して合わせようとしてきたが,Fs.abを補正することによって両者を数学的矛盾なくドッキングさせることができるようになった.

 

Table 2 Experimental result of a quantitative WBA

   
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