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6.定量全身オートラジオグラフィー 

6.2 WBA切片における臓器の厚み

 現在行われているWBAでは定量ができない最大の理由は,凍結切片上の各臓器の厚み(mg/cm2)が不明で自己吸収補正ができないことである.
 厚みの表示単位
 まず,厚みは一般にm単位で表示されているが,β線が関与する現象では厚みはmg/cm2単位を使うのが常識であることを指摘しておく.β線の吸収の度合いは,他の放射線と違って,この単位で示せば物質の種類にほとんど依存しないからである.以下,単に厚みはこの単位で与えられる厚みを意味し,長さ単位の厚みは特に厚み(m)と示す.
 C-14は典型的な軟β放射体であるのでそのβ線は自己吸収を強く受ける.WBA開発当初から自己吸収の問題が指摘されていたが,WBA切片における各臓器の厚みを測る方法がなかったので具体的な扱いは棚上げにされたままである.自己吸収を補正しないWBAは,クエンチングを補正せずに液シンを使っていることと同類で,いかに工夫しても定量WBAにはなりえない.

 WBA切片における臓器の厚みは?
 WBA切片上の各臓器の厚みは,切片作成の厚み(m),生臓器の比重及び含水率,切片作成の条件などによって異なるが,60μmで作成した切片では臓器組織は0-3 mg/cm2と予想される.
 WBA切片における臓器の厚みを測る方法
 最も手っ取り早い方法は,WBA切片から臓器部分一定面積を切り取り,ミクロ天秤で重量を量る方法である.この方法は肝,肺,脳など大型臓器に対しては適用できるが,小さな臓器や複雑な形をした臓器に対しては誤差が大きくなる.
 大小を問わず,WBA切片臓器の厚みを精度良く求めることを可能にする唯一の方法はβ放射体平面線源によるラジオグラフィーである.β放射体平面線源表面からIPの感光層までの厚みを整理すると次のようになる.すなわち,WBAでは6.5 mg/cm2の風袋(粘着テープと薄膜)に載っている0-3mg/cm2の凍結乾燥臓器の厚みを測定しなければならない.このほかに,平面線源とIPの感光面の間には,それぞれを保護しているプラスチックフィルム(合わせて3.5 mg/cm2)が存在する.

Imaging plate
  Protective layer 1.5 mg/cm2  
Sample
  Thin film covering section 0.5  
  Section (60μm) 0-3  
  Adhesive tape 6.0  
Planar radiation source
  Wrapping film 2.0  
Total   10~13  

 風袋の厚みは安定しているか?
 粘着テープに付着している凍結乾燥切片を剥がして切片だけの厚みを測定するという訳にはゆかない.すなわち,風袋に載っている臓器切片を測るのであるから,風袋自身の厚み均一性が問題になる.まず,風袋になるマグテープとルミラー膜を25.0 cm2切取り,秤量したところ(n=5)それぞれ5.46±0.08 mg/cm2,0.47±0.01 mg/cm2で,少なくとも筆者らが使っている風袋材質は均質であること,すなわちWBA切片は均一厚みの風袋に載っていることが証明された.
 ラジオグラフィーに使用できるβ放射性同位体は?
 この目的に使用できるβ放射性同位体は次の条件を満たしていなければならない.純β放射体であること.半価層が4 mg/cm2前後に相当するβ線を放射すること.エネルギーが低いと風袋及び平面線源とIPを保護しているプラスチックフィルムに吸収されてしまい,逆にあまり高いと0-3 mg/cm2の厚みの差を有効に識別することができない.半減期は手ごろな長さであること.あまり短いと,頻繁に作り直さなければならない.あまり長いと,破損した場合に廃棄の問題が残る.平面線源に加工できる化学的性質を持っていること.多数のβ放射体があるが,これらの条件を満たすのはPm-147だけである.
 Fig. 1はC-14及びPm-147の吸収曲線である.ラジオグラフィーを適用した場合,平面線源表面からIPの感光面までの間には約10-13 mg/cm2の厚みがある.この図は,C-14平面線源では4-5半価層のところで,Pm-147平面線源では3半価層前後で厚み測定することになることを教えており,C-14β線はエネルギー不足であることが分かる.更に,線源が破損した場合,Pm-147(2.623 y)平面線源ではdecay out を待つことができるが,C-14(5730 y)平面線源では廃棄処理の難問が残る.このような理由からWBA切片のラジオグラフィーにはPm-147平面線源が最適であると結論した.

 

 

Fig. 1 Absorption curves of Pm-147 and C-14 by GM counter

 

 Fig. 2は,Pm-147平面線源を使うラジオグラフィーの原理図である.1)はIPである.2)はWBA切片で,裏返して露光される.3)は厚み校正切片で,アルミニウムフォイルを重ねたものである.4)はPm-147平面線源で,プラスチック板に無限厚み以上にPm-147樹脂液を塗布したものである.

 


Fig. 2 Principle of theβray radiography

 

 Fig. 3は,Pm-147平面線源を使ってとられた厚み画像の一例である.本図の左上にある長方形の画像は厚み校正切片の画像である.Fig. 4 は厚み検量線である.アルミ箔の厚みとlog PSLは優れた直線関係にあるので,これを使って各臓器の厚みを精確に求めることができる(2).1枚の切片を5回測定し,主要臓器のmg/cm2を求め,1mm厚み(m)に換算した値(mg/cm2/mm)を算出した.実験結果は,興和のデータとしてTable 1にあげた.測定値のSDからこの厚み測定における繰り返し精度は極めて高いことが分かる.
 定量WBA(後述)で実験材料となったラットの60μm(3枚),90μm切片について得られたmg/cm2/mm値を根本のデータとしてTable 1にあげた.この場合には,切片作成における全過程の誤差が含まれるので各臓器のmg/cm2/mmのSDは大きくなっている.以後,自己吸収の論議は根本のデータに基づいて行う.
 ここで注目すべきことは,両施設のmg/cm2/mm値の序列(testis, brain and lung, thymus, liver)は同じであるが,値は微妙に異なっていることである.WBA切片作成において,興和は切片を一夜,根本は二夜乾燥している.各臓器のmg/cm2/mm値はマイクロトーム,乾燥の度合いなどによって変動するが,同じマイクロトームを使い,実験条件を一定にすれば各臓器のmg/cm2/mmは各臓器固有の値になると思われる.

 

Fig. 3 Density radiogram of lyophilized rat 60μm section


Fig. 4 Relationship between log PSL and Al thickness

 

Table 1 Density (mg/cm2/mm) of lyophilized rat tissues

  Nemoto* Kowa**
Testis 12.7±2.50 12.7±0.67
Brain 18.5±3.42 22.2±1.17
Lung 18.8±1.41 22.2±0.50
Thymus 20.8±0.85 23.3±1.67
Heart 21.3±0.54  
Kidney cortex 24.0±2.60  
Muscle 22.0±3.56  
Adrenal 27.0±2.58  
Liver 29.6±2.21 32.3±0.50
* Calculated from three 60μm sections + one 90μm section.
** Five measurements of one 60μm section.

 

 Fig. 5は,後述する方法で作成された自己吸収補正曲線である.図中, 60μmラット切片の臓器組織の厚みとFs.ab.が丸1-7で示されている.当然のことながら,最も厚いのは骨であるが,骨にも厚みに差があり,肋骨,頭蓋骨などに比べて大腿骨(Fig. 5では丸7で示されている,以下同様)及び顎骨は厚い.人工的に骨粗しょうを発症させると大腿骨の骨密度が低下することが,この方法で明らかにされた.次に厚いのが腹部にある脂肪(丸6)である.腹部に脂肪がたまるのはヒトもラットも同じようである.消化管内容物は一定の値を与えない.これは,脱水が進むにつれて厚くなっていくことを意味している.主要臓器で最も厚いのは肝臓(丸5)で,これに腎臓(丸4),次いで心臓,筋肉,甲状腺(まとめて丸3),肺臓と脳(まとめて丸2)と続き,睾丸(丸1)が最も薄い臓器である.

 


Fig. 5 Correction curve for self absorption of C-14



   
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