RLGlogo2

3. ラジオルミノグラフィーによる放射能の定量測定

3.5 ユーザー側のバリデーション

 現在,すべての分析機器は使用に先だってその機器が正常に作動していることを確認する試験(ユーザー側のバリデーション )をすることになっているが,RLG はユーザー側のバリデーションが曖昧なまま使われている.このことが,RLG の信頼性を不確かなものにしている最大の要因である. 出荷時または再調整時に保証された BAS及び IP の精度がいつまでも保持されていると考えるのは危険である.著者らは IP の RI 汚染検査法を発表した(15).BAS 及び IPの面均一性試験に日常的にβ線平面線源を使うのは非実用的であるので,自家製のC-14テスト線源による BAS 及び IP の面均一性試験法を提案した(14).

 C-14 テスト線源と露光法
 C-14テスト線源に求められる条件は,有限数のスポットで IP 全面にわたる面均一性をできるだけ反映できること,各スポットのβ粒子密度(放射能ではないことに注意)を一定にするか,正しく補正できること,スポットする放射能は実用的な露光時間内で 100000 個(統計誤差 0.32 %)以上のβ粒子が IP の感光層に入射する量であることなどである.C-14テスト線源は,着色した [C-14] tryptophan(2.02 GBq/mmol) 溶液各50 μl(180 Bq)をポリプロピレン樹脂片上にスポットし,風乾した後,ルミラー膜でシール(線源片)し,これらを20×40 cm の厚紙上指定17 エリアに貼付することにより作成した.スポット量は,スポット前後のポリプロピレン樹脂板をミクロ天秤で精秤することによりできるだけ精確に補正した.また,各線源片の表面β粒子密度が正しく補正されていることは,線源片を IP の中心部(感度は均一と考えて差し支えない)に置いて RLG を行い,PSL 値から確認した.なお,ろ紙に直接スポットする方法では期待したテスト線源は得られなかった.これは,ろ紙では厚みが不均一で自己吸収の度合いがスポット位置ごとに異なるためと説明された.作成されたC-14テスト線源から IP の感光層に入射するβ粒子数は,自己吸収率(Fs.ab(=1.00),幾何学的効率(Fg=0.5),IP の保護膜及び C-14テスト線源をラップしているルミラー膜(合計厚み約 2 mg/cm2)による吸収(Fab=0.57)から185000/hr/spot と見積もられ,1時間露光のときの統計変動は 0.23 % になる.
 まず,30 分間C-14テスト線源へ露光した後,線源を180 度回転して30 分間露光した(重複露光).この場合,指定エリア17 は例外として,互いに対称位置にある 2 つのエリア,例えば指定エリア1と 5 には同数のβ粒子が入射することになる.すなわち,β線均一照射の観点からは1 枚の平面線源で, 2 枚の平面線源で露光し,平均化したのと同じ効果を挙げることができる.

 BAS の感度均一性試験
 C-14テスト線源に露光した未使用 IP を 3 台の BAS で解析した.BAS 2 については 3 回反復した.各指定エリアの PSLob の指定エリア17 のそれに対する比,相対感度比を算出し,感度方向変動性を検討した.実験結果は Fig.7 に示した.3 台のBAS はそれぞれ特徴的な感度方向変動性を持っている. Pm-147 平面線源であらかじめ BAS の感度均一性を画素子レベルで校正しておけばこれらの方向変動性は認められなくなることは明らかである.

Fig.7 Directional fluctuations in the relative sensitivity
to the C-14 test radiation source

 

 BAS 1(再調整後)における指定17エリアの PSLob の RSD は最も小さく 1.33 % で,感度は縦方向に軽度の変動が認められたが,横方向は極めて安定している.BAS 2 で行った反復実験のデータからこの実験の再現性は十分に高いことが分かる.BAS 2 の感度は縦・横ともに中央部が低く,両端が高く,四隅ではこの傾向が互いに強められて一層高くなっている.BAS 3では,縦方向に大きな変動が見られるほか,横方向の変動も他の 2 台に比べて大きく,その結果対角線方向に大きな変動を生じ,指定17 エリアの PSLob のRSD は最も大きく 2.55 % になっている.重複露光しているので,IP の中心点に対して対称の位置にある各エリア対(例えば,指定エリア3 と 7)へ入射したβ粒子の数は同じであるが,各エリア対間に差があるのはBAS 感度の不均一性によるものである.

 IP の応答感度均一性試験
 RLG の開発以来 10 年以上が経過したが,IP の劣化について注意を喚起する動きは全く見られない.IP の劣化には応答感度の低下,RI 汚染及び応答感度均一性の低下の 3 つがある.これらのうちより致命的なのは後の 2 つである.
 IP の応答感度均一性の低下を,残像消去処理した後比較的長時間 BG放射線下に置いた IP のPSLnor.bg における分布から推定しようとする考え方も成立するが,PSLbg は絶対値が小さく,それだけ統計変動を大きく受けるのでこの方法では均一性を精確に評価することができない.例えば,20 mm 真鍮箱内で 72 hr 露光した場合の PSLnor.bg/100 mm2 の RSD は約 1.9 %(Fig. 4)で,3 SD を検出限界とすると 5.7 % 以上の不均一性しか検出できず,これでは不均一性試験としては甘すぎるように思われる.
 IP の応答感度均一性を厳密に試験するには,IP をβ線で均一照射し,PSLnor の分布を調べなければならない.前述したように, Pm-147 平面線源に露光した未使用 IP 間では 684 エリアの PSLob は相互に校正され,PSLnor/100 mm2 の RSD は 0.5 % 前後になる(Fig. 2).3 SDを検出限界とするとこの方法では1.5 % の不均一性が検出できる.これに対して,古い IP にこの試験を適用しても校正の効果は見られないことが分かった(14).この事実は,古い IP では感度の均一性が低下していることを示唆している.
 簡便に IP の応答感度均一性をモニターする方法として C-14テスト線源露光法を提案する.IP の応答感度低下は,RI 汚染とは対照的にある広がりをもって起こると考えられる.したがって,C-14テスト線源を使って指定17エリアの相対感度比を日常的にモニターしておれば IP の応答感度の不均一化はいち早く把握できる.実際,C-14テスト線源に露光した古い IP における指定17 エリアの相対感度比の方向変動性は,未使用 IP とは違ったパターンになってくる(14).一般に,古い IP では応答感度が全面にわたって低下するほか,四隅における応答感度が著しく低下していることが分かった.四隅における応答感度の低下は,ここを素手で持つなどの間違ったハンドリングによるものと考えられる.

 IP の RI 汚染検査法
 何らかの事故で IP が RI 汚染され,汚染箇所が falsely high net PSL value を与え続けている危険性がある.したがって,バリデーションの立場からは IP の RI 汚染状況を常時モニターすること,及び疑わしいデータが出た場合には使用した IP の RI 汚染情報を遡って引き出せるようにしておくことが肝要である.
 最も簡単な汚染検査法は, PSLob.bgの分布を調べる方法であるが,PSLob.bg には位置依存性がある(Fig. 4 A)ので正確な情報は得られない.そこで,より理論的でしかも実用的な IP の RI 汚染管理法として PSLnor.bg を指標にする方法を提案する(15).この場合,検討するエリアの面積が問題になる.エリアの面積が広いと汚染が希釈されてしまう.また,余り狭いと汚染箇所の“位置ぎめ”が困難になる.両者の妥協として汚染の検討単位として 5×5 mm を採用した.このサイズにすれば,IP の全エリアを 4 桁の数で示すことができる.すなわち,前の 2 桁 (01-40) は IP (短辺)の上辺からの距離,後の 2 桁 (01-80) は左辺からの距離を示す.このように番地をつけておけば,解析時における IP の位置ずれは 2 桁目 and/or 4 桁目だけである.したがって,汚染箇所を遡って容易に同定することができる.
 実験結果の一例を挙げる.20 mm 真鍮箱の中で 72 時間露光した場合の PSLnor.bg /25 mm2 は正規分布を示し,その値は 71.4±1.9 PSL であった.判定基準は各研究室で決めることであるが,例えば,PSLnor.bg が 4 SD を超えるエリアがある IP は汚染 IPとし,3 SD-4 SD のエリアは擬汚染エリアとして以降監視を続けるなどがその一例であろう.
 われわれの最大関心事は,この方法でどのくらいのC-14汚染 が検出できるかということである.前記の露光条件で 125 mBq のC-14を,ルミラー膜を介して露光した場合 140 PSL を与える (Fig. 6 C).ルミラー膜による吸収を考慮すると,100 mBq の汚染が 132 PSL を与える.したがって,この判定基準を適用した場合には 6 mBq C-14/25 mm2 以上の汚染が検出されることになる.露光条件が変われば,当然検出限界も変わる.カセット内で 24時間 及び 72 時間露光した場合の検出限界はそれぞれ 22 及び 12 mBq C-14/25 mm2 と推定される.

章の目次へ 次へ
 Home 略字表