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3. ラジオルミノグラフィーによる放射能の定量測定

3.6 Q and A

Q 3.1 RLG における感度均一性は何によって決まるか?
Q 3.2 BAS の感度校正は可能か?
Q 3.3 X 線照射した IP も感度校正に使用できるか?
Q 3.4 net PSL 値がマイナスになることがある.BG はどこにとったら良いか? より正確に BG 値を評価するにはどうしたら良いか?
Q 3.5 従来の放射線測定装置の測定結果は a ± b cpm のように必ず標準偏差をつけて提示することになっている.RLG では,標準偏差という議論を見かけないが,これはいかなる理由によるか?
Q 3.6 PSLnor.bg/100 mm2/72 hr(20 mm 真鍮箱内)は 317.5±5.9 PSL (RSD 1.86 %)とあるが,何個ぐらいの自然放射線が入射しているのか?
Q 3.7 RLG では Bq 単位で求められないといわれているが? Bq 単位への換算はどうしたら良いか?
Q 3.8 TLC や全身オートラジオグラフィー(WBA)で,PSL 像が尾を引いたように現れるが,これはいかなる原因か?
Q 3.9 現在,あらゆる装置や操作法が GLP の対象になっているが,RLG についてはユーザー側バリデーションが曖昧なままになっているように思われる.RLGのユーザー側バリデーションはどうしたら良いか?

Q 3.1 RLG における感度均一性は何によって決まるか?
A 3.1 IP の応答感度と BAS の PSL 読取り感度の均一性によって決まる.しかもこの両者が重なった状態でしか観察されない.Pm-147 平面線源に露光した 4 枚の brand-new IP を,2 台の BAS で解析し,不均一性の現れ方を統計的に検討した.その結果,brand-new IP の応答感度の均一性は極めて高いこと,不均一性の主因は BAS 側にあり,しかもその現れ方には再現性があることが分かっている.
 露光された IP の読取りは,IP 全面をレーザー光線でスキャンすることによってなされる.スキャンは縦(IP の短い側,主スキャン)横(副スキャン)にわたって行われる.有限長さの光学系で PSL を IP 全面にわたって均一感度で読取ることは無理な話である.各地点における読取り感度は,その地点における主副両スキャンの感度によって決まる.例えば,感度が主スキャンでは上端から下端へ,副スキャンでは左端から右端へ行くにつれてそれぞれ 2 % 低下する状態になったとする.IPの中心における感度を1.00とする.左上隅では相乗的に感度が高く(1.02),右下隅では相乗的に低くなり(0.98),その差は 4 % にもなる.これに対して,左下隅と右上隅は効果が互いに相殺されて感度変化は現れない.その結果,左上の隅から右下の隅への対角線に沿って顕著な感度の低下が見られるが,他の対角線ではこの変動は見られないことになる.これは決して誇張されたものではなく日常見られる程度の不均一性である.
 以上のような理由から,IPの四隅の応答感度は,中央部に比べて均一性が悪い.普通,標準試料や BG試料は IP の四隅の1つに置かれるので,この差は最高 4 % も偏って評価することになる.
 諸般の理由でBAS の校正まで手が回らない場合には,BAS を定期的に調整すること,周辺部約 40 mm を除外して使用することをお勧めする.

Q 3.2 BAS の感度校正は可能か?
A 3.2 IP の応答感度の均一性及び BAS の PSL 読取感度における方向変動性の再現性は極めて高い.したがって,Pm-147 平面線源または C-14 平面線源に露光した brand-new IP を BAS で解析してピクセルごとの感度校正係数を求め,これで校正すれば IP 全面にわたって極めて高い均一性(0.5 % の RSD)が得られる.校正操作は全て電算機上行えるので特別な作業は不要である.この方向変動性は各 BAS に固有のもので比較的長期間にわたって安定している.

Q 3.3 X 線照射した IP も感度校正に使用できるか?
A 3.3 使用できるが,次の 2 点を念頭において使用しなければならない.その1つは,IP の応答感度の均一性を支配する因子は軟β線(C-14,Pm-147)と X 線では異なることである.すなわち,この応答感度の均一性は軟β線に対しては IP の保護膜の厚みの均一性で,硬β線(P-32)や X 線に対しては感光層の厚みの均一性で決まる.Pm-147 平面線源に露光した IP によって IP の応答感度の均一性は高いことが明らかになっているので,少なくとも現在の製造法で作られている IP については問題ないと考える.他の1つは,X 線照射は充分な距離をとって行わなければならないことである.

Q 3.4 net PSL 値がマイナスになることがある.BG はどこにとったら良いか?より正確に BG 値を評価するにはどうしたら良いか?
A 3.4 BG 値は露光容器の遮蔽厚みに対して指数関数的に減少するが,その SD は低下しない.これは,BAS の PSL 読取り感度及び遮蔽強度に不均一性があるからである.例えば,20 mm 真鍮箱内で露光した場合の PSLbg/100 mm2 の変動幅は C-14 20 mBq に達する.IP 全面を均一強度で遮蔽する容器を作ることは無理な話で,箱内で露光した場合,どうしても IP 周辺部がより強く遮蔽されている.IP 全面を使う時には,PSLbg の代りに PSLnor.bg を使うと良い.BG における不均一性も IP 周辺部においてより顕著である.したがって,PSLbg をそのまま使いたいなら周辺部を除外して使うことをお勧めする.
 より合理的な BG 値の評価法として重合わせ法を提案する.その骨子は,露光に複数枚の IP を用い,測定試料に接している以外の IP における指定 ROI の平均値を BG 値とすることである.C-14 β線の飛程は IP の厚みに比べて充分に薄く,その制動放射線の発生率も問題にならない.この方法は特に低レベル放射能の測定に有効と思われる.この方法は,従来の放射線測定法における逆同時計数法に対応する.

Q 3.5 従来の放射線測定装置の測定結果は a ± b cpm のように必ず標準偏差をつけて提示することになっている.RLG では,標準偏差という議論を見かけないが,これはいかなる理由によるか?
A 3.5 正規分布する現象には標準偏差を付記することになっている.PSLob や PSLbg は,BAS の感度や遮蔽強度における不均一性のために正規分布しないので,これらに標準偏差という概念を適用することはできない.不均一性を校正して得られた PSLnor や PSLnor.bg は典型的な正規分布を示す.例えば,20 mm 真鍮箱内で 72 時間露光されたときの PSLnor.bg/100 mm2 は 317.5±5.9 PSL である.このように,校正された値を用いれば標準偏差という考え方を適用でき,これに基づいて検出限界を規定することができる.

Q 3.6 A3.5で,PSLnor.bg/100 mm2/72 hr(20 mm 真鍮箱内)は 317.5±5.9 PSL (RSD 1.86 %)とあるが,何個ぐらいの自然放射線が入射しているのか?
A 3.6 自然放射線1個当たりの PSL 値が分からない,また,fading がどのくらい起こっているか定かでないので正確には答えられない.これだけの厚みの遮蔽であるので,BG 放射線は IP の感光層を透過していると考えられる.Fading によるロスを無視し,P-32 β線(大部分は IP の感光層を透過している)に換算してみる.この核種は1個当り平均で約 0.087 PSL を与える.この BG 値は 3650 個の P-32 β線が入射した時に予想される値に相当し,その RSD は1.66 % で,観察された RSD にほぼ一致することは興味深いことである.

Q 3.7 RLG では Bq 単位で求められないといわれているが? Bq 単位への換算はどうしたら良いか?
A 3.7 放射能の SI 単位である Bq(時間-1)に換算できない放射能測定法はあり得ない.RLG でも,標準試料との比較測定によって Bq 単位で求めることができる.同時測定であるので比較はより直接的である.従来の放射線測定装置の計数時間(普通, minute単位)に対応する露光時間が習慣的に付記されていないのでこのような思い違いが起こっていると思われる.PSL の次元は Bq と同じである.
 次のような諸事項を念頭において RLG を行えば PSLob を正しく Bq 値に換算できる.劣化していないことが保証されている IP を使用する.BG の不均一性と BAS の PSL 読取り感度の不均一性を校正するか不均一性の程度が許容範囲の領域だけを使う.マイクロプレート RLG や全身オートラジオグラフィー(WBA)では Fs.ab を正しく補正する.マイクロプレート RLG では内部標準法を適用することもできる.

Q 3.8 TLC やWBAで,PSL 像が尾を引いたように現れるが,これはいかなる原因か?
A 3.8 フレア現象によるものである.フレア現象は主スキャン方向にしかも手前側により強く現れる.フレア現象の詳細についてはメーカー側から明らかにされていない.小さな C-14平面線源に露光した IP で検討したところ,線源境界におけるフレア発生率は 0.5 %,半減の長さは約 6 mm と推定された.TLC や WBA で極端に高い PSLob を与える ROI 付近はこの現象を念頭において解析しなければならない.この場合,走査方向を変えて調べてみる慎重さが必要である.

Q 3.9 現在,あらゆる装置や操作法が GLP の対象になっているが,RLG についてはユーザー側バリデーションが曖昧なままになっているように思われる.RLGのユーザー側バリデーションはどうしたら良いか?
A 3.9  RLG のバリデーションは BAS と IP の両者に対して考えなければならない.
 BAS の感度均一性を試験したり,校正したりするには C-14 または Pm-147 平面線源に露光した IP(平面線源そのものではないことに注意) が必要である.平面線源に露光した IP は放射性物質ではないので宅急便で,この試験に何の支障もなく輸送できる.均一性をより簡便に試験するには C-14テスト線源を使ったら良いと思う.
 IP の劣化には,RI 汚染と応答感度の不均一化がある.
 RI 汚染 試験したい IP と複数枚の brand-new IP を重ねて長時間露光する.前者における各エリアの PSLbg を後者における対応したエリアの PSLbg(平均値)で校正し,PSLnor.bg を算出する.PSLnor.bg の分布を調べ,異常値を示すエリアをモニターする.例えば,20 mm 真鍮箱内で 72 時間露光された IP の PSLnor.bg/25 mm2 は典型的な正規分布を示し,71.4±1.9 PSLであった.例えば,4 SD を判定基準とすると,この露光条件下では 6 mBq C-14/25 mm2 以上の汚染が検出できることになる.
 応答感度の不均一化 厳密に行うには Pm-147 または C-14 平面線源が必要である.応答感度の不均一化は,ある広がりをもって進行していると考えられるので,前出の C-14 テスト線源露光実験によって代用できるのではと考えている.古い IP をこの方法で調べたところ,感度劣化は例外なく四隅に認められた.これは,IP を素手で持つなどの誤ったハンドリングによるものと考えられる.

 

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