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7. 研究例

7.7 Imipramine(IP)のdesipramine(DMI)への代謝率の測定

 薬物 X の代謝物 M が薬理活性または毒性を有する場合,投与した X から M に代謝される率(fm)を評価することはドラッグデザイン,薬物の薬効毒性解析,薬物の投与設計等に極めて大きな意義を持っている.被験者を2群に分け,それぞれに X と M を投与し,ある休薬期間後に M とX を投与して M の AUC を比較する方法(いわゆるクロスオーバー法)が行われているが,この方法では個人差のみならず同一被験者でも日間変動の影響を除外することができない.
 IP は広く使用されている抗鬱病薬である.IP の脱メチル体である DMI も薬理活性を有していることが知られている.IP の投与量が同じでも IP や DMI のプラズマ濃度には大きな個人差があることが報告されており,この個人差は,IP の DMI への代謝における差に起因していると考えられている.しかしながら,IP の DMI への fm については未だ研究されていなかった.著者等はこの fm を同時投与法で求める方法を発表した.
 まず,dibenz-[b,f]-azepine 骨格上の水素の軽水素-重水素交換反応に対する反応性の差を利用して, dibenzazepine 骨格の 1,3,7,9(比較的交換反応を受けにくい)を標識した IP-d4(同位体濃度94.7 %),DMI-d4(95.8 %),及び骨格の全水素原子を標識した IP-d8(88.8 %),DMI-d8(90.6 %)を合成した.いずれの標識体の同位体濃度もトレーサー実験には充分に高い.
 次に,ラットを用いて基礎検討した後,IP-d4 と DMI-d0の混合物(それぞれ 25 mg)を 4 人の健常人に経口服用させ,経時的に採取したプラズマに IP-d8 及び DMI-d8 を内部標準として添加し,プラズマ中の IP-d4,DMI-d0及び DMI-d4(IP-d4 由来)を GC-MS-SIM で定量した.IP の DMI への fm は,IP-d4 由来の DMI-d4 と DMI-d0 の AUC の比から算出された.その結果,この値にはかなりの個人差(0.85〜0.54)があることが分かった.このような方法は他の薬物のfmの研究にも有効な手段である.
 Y. Sasaki, Y. Shinohara and S. Baba: J. Pharm. Sci., 79, 96(1990).
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