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7. 研究例

7.8 キラールインバージョンを伴う光学異性体,suprofen(SP)の動態研究

 1980年代になると,生体内で立体配置が転換する現象 chiral inversion が報告され,また光学異性体を分離できる GC カラム,キラールカラムが登場し,光学異性体の動態が更に詳細に解明できるようになった.著者らは, SP 光学異性体のヒトにおける体内動態を疑似ラセミジアステレオマー法で研究した.
 (+)SP-d3(光学純度 92.44 %)100 mg と (-)SP(光学純度 93.46 %)100 mg の混合物(near equimolar mixture)を経口服用(n=3)し,経時的に採血して得られたプラズマに内部標準として (±)SP-d7 を一定量加えた後,SP を抽出し,(-)1-naphthylethylamine でジアステレオマーとし,プラズマ中に存在する,SP を GC-MS-SIM で定量した.1 週間後逆のラセミ体を服用し,同じ実験を行った.プラズマ中には,(+)SP-d3,(-)SP 及びそれぞれの光学不純物として(-)SP-d3,(+)SP,合計 4 種類の SP が存在する.SP の(+)体と(-)体はジアステレオマーによるカラム分離,d3 と d0 は d7 を内部標準とする SIM によって定量される.
 Fig. 1 には SP 及び使用した標識体の構造式を,Fig. 2 には (±) SP と (±) SP-d3 の等モル混合物を経口服用し,プラズマに (±) SP-d7 を添加して行った GC-MS-SIM の一例を,Fig. 3 には服用実験結果の一例を示す.Fig. 3 において注目すべきことは,(-)SP-d3/(-)SP は一定に経過しているのに対して (+)SP/(+)SP-d3 は経時的に上昇していることである.これは,生体内で (-)SP が (+)SP へ chiral inversion していることを示唆している.この研究により,chiral inversion (0.068±0.032) を含めた,SP 両光学異性体の体内動態を精確に解明することができた.
Y. Shinohara, H. Magara, S. Baba: J. Pharm. Sci., 80, 1075(1991).
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