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10. C-14標識体ナノモルドージングでヒトでの代謝試験

10.2 検討すべき課題と投与量

 一口にヒト代謝実験と言っても検討したい課題によって投与必要量が変わってくる.次に3つのケースについて試算する.

 試算1 C-14標識薬物22000Bq(10nmol)投与
投与放射能の1%(1日当たり)が含まれている尿,呼気及び便から1日量の1/500を採って調製された測定試料中には440mBqのC-14が含まれていることになる.これは検出限界の40倍量に相当し,高精度で定量できる濃度である.最高血中濃度に達した時点で,採取された血液試料には440mBq/ml存在する.各時点で1ml採血すれば,放射能の経時変化を4半衰期に渡って追跡できる.この投与量では,呼気を含めた,精確なマスバランスの解明ができる.また,採血量を多く(+10 〜 20ml)し,ラジオ液クロすることによって,最高血中濃度時点及び1半衰期までの血中主要代謝産物の時間的推移も解明できる.

 試算2 C-14標識薬物2200Bq(1nmol)投与
100mlのバイアルを使用する.
投与放射能の1%(1日当たり)が含まれている尿,呼気及び便から1日量の1/100を採って調製された測定試料中には220mBqのC-14が含まれていることになる.これは高い精度で定量できる量である.最高血中濃度に達した時点で採血された血液試料中には44mBq/ml存在する.この投与量では,呼気を含めたマスバランスが解明でき,おおまかな血中濃度経時変化をみることができるが,精確な血中濃度の経時変化の解明や血中代謝産物の検索は困難である.試料量を大きくできるので,尿,便中の代謝産物の検索及び定量はこの投与量でも十分可能である.

 試算3 C-14標識薬物110Bq(0.05 nmol)投与
排泄物の1/10を採り,ベンゼンに変換して測定したとする.投与放射能の1%(1日当たり)が含まれている試料から調製された測定試料には110mBqが含まれていることになる.これは定量できる量である.110Bqは1日に摂取する食物中の全C-14の約3倍に相当する(3).人体を構成する炭素も日々摂取している食物中の炭素もすべてmodern carbonである.排泄物中に含まれている内因性modern carbon 中のC-14量の変動が,薬物由来のC-14の定量精度に大きな影響を与える.このような事情を考慮すると,いずれの方法を選択するにせよ,この投与量では精確なマスバランスは期待できないと考える.

  結局,投与量は,どこまで詳しく薬物動態を調べたいかによって決まる.単にマスバランスだけなら110Bqの投与でも可能であるが,これだけでは大山鳴動させてネズミ一匹の感がある.実験する以上,精確なマスバランス,血中代謝産物の動態まで解明できる,22000Bq(10nmol)投与がベターと考える.放射線被爆を心配する向きもあろうかと思われるが,5. 極低レベル C-14 標識薬物投与実験 の冒頭に述べたように,“C-14 1μCi の服用による被爆=2時間の空の旅” に過ぎない.放射線被爆に関するより詳細なことは同章のQ and AのQ1で解説した.
   
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