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11. 簡易定量全身オートラジオグラフィーの提案

11.3 簡易定量WBAの理論的根拠

 WBA切片各臓器の厚みは,マイクロトームの設定厚み(m)のほかに切片を凍結乾燥する条件などによっても変動する.しかし,SOPに従って作成されたWBA切片各臓器のmg/cm2/mmの値は定値として扱って差し支えないと考える.
 平面線源によるラジオグラフィーは全く新しい手法である.C-14平面線源によるラジオグラフィーによってコールドWBA切片各臓器の厚みが求められる理論的根拠を解説しよう.
 平面線源によるコールドWBA切片のラジオグラフィーを可能にするには3つの条件がある.
 第一の条件は,適当なエネルギーを持つβ粒子を放射する純(γ線を伴わない)β放射体を選択することである.あまり,エネルギーが小さい(例えば,H-3)と,β粒子は測定対象物を透過することができない.また,逆に大き過ぎる(例えば,P-32)と厚みの違いを区別できない.β放射体にはいろいろあるが,この目的に最も適したβ放射体はPm-147,次善はC-14である.なお,X線やγ線は,透過力が強すぎるのみならずその吸収係数には物質依存性があるのでこの目的には使えない.
 第二の条件は,平面線源表面におけるβ粒子束密度が均一であることである.これは線源層を無限厚み以上にすることによって容易に達成できる.
 第三の条件は,露出時間内に検出部(この場合にはIPの感光層)に入射するβ粒子の数である.これがあまり少ないとモザイク状の画像しか得られない.これには,平面線源表面におけるβ粒子束密度,露出時間,測定対象物の厚みが関係してくる.

 C-14β線の半価層は約2.5mg/cm2で,C-14β線はコールドWBA切片のラジオグラフィーを可能にするエネルギーを持っている. 6.Fig. 1 Absorption curves of Pm-147 and C-14 by GM counter
平面線源表面からIPの感光層までの厚みを考察してみよう.WBA切片臓器の厚みは0〜2.5mg/cm2の範囲である.WBAにはさまざまな粘着テープや保護膜フィルムが使われているが,ここではWBA切片は6mg/cm2の粘着テープ上にマイクロトームされ,凍結乾燥され,0.5mg/cm2の保護膜フィルムでシールドされているとする.
C-14平面線源,厚み1.5mg/cm2プラスチックフィルム(平面線源保護のために),コールドWBA切片,保護膜のないIP(IP-TR)を重ねておいた場合を考えてみよう.C-14平面線源表面とIPの感光層の間にはトータルで7.5〜10.0mg/cm2(すなわち,C-14β線の3〜4半価層相当)の物質が存在することになる.極めて簡潔な結論は,この条件下ではβ線密度がC-14平面線源表面β線密度の1/8(厚み0の臓器)から1/16(厚み2.5mg/cm2の臓器)の間でラジオグラフィーを行うことになるということである.

 ray test社のC-14平面線源は,コールドWBA切片のラジオグラフィーを可能にするβ粒子束密度を持っているかを考察しよう.
ラジオグラフィーにおいて,IPの感光層に入射するβ粒子の数が少ないと画像はモザイク状になる.筆者の経験では感光層に入射するβ粒子密度を10000/mm2前後にする必要があると考える.Pm-147平面線源によるWBA切片そのもののラジオグラフィーのケースとは2つの点でこの要求は緩和される.その1つは,コールド切片であるので露出時間を数日まで延長できる.他の1つは,保護膜(1.26mg/cm2)のないIPを使えることである.
筆者はray test社のC-14平面線源を使ったことはないが,RLGバリデーション検討委員会の報告書に記載されているデータ(長塚伸一郎,Radioisotopes,48,132-145(1999))からray test社のC-14平面線源の表面ベータ粒子束密度を推定する.ray test社のC-14平面線源に普通のIP(保護膜あり)を約3時間露出し,一般的な条件で(ラチチュード4,センシチビティー10000,1024階調)で読み取った場合,約400PSL/mm2が得られると報告されている.筆者は,この解析条件下ではC-14β粒子1個は平均で約0.02PSLを与えると推定している.すなわち,ray test社のC-14平面線源の表面β粒子束密度はおおよそ7000βparticles/mm2/hrと見積もられる.コールドWBA切片をray test社のC-14平面線源で23時間ラジオグラフィーした場合,厚み0の臓器及び2.5mg/cm2の臓器ではそれぞれおおよそ20000及び10000個のβ粒子がIPの感光層に入射することになる.これはあくまでも目安である.実際には保護膜による吸収損失がない分だけ多くのβ粒子が到達するはずである.細かい数字は問題にならない.1,2回試行錯誤してみれば適正露出時間は分かるからである.
以上の推論はPm-147平面線源を用いて得られた実験結果からも支持される.
Fig. 1にはラット切片の厚み画像が与えられているが,アルミニウム箔の厚みから作成された検量線 6.定量全身オートラジオグラフィー Fig. 4 Relationship between log PSL and Al thickness の縦軸(log PSL)が2.6(400 PSL)から始まっていることに注意しよう.C-14β線のエネルギー(0.156 MeV)はPm-147のそれ(0.224 MeV)よりも少し小さいので厚み検量線はこれより急勾配になり,もっとコントラスト良い画像が得られるはずである.β線の吸収曲線は,6.定量全身オートラジオグラフィー のFig. 1 Absorption curves of Pm-147 and C-14 by GM counter に示したように少し膨らんだ形になるが,厚みが狭い範囲ではlog PSLと厚みとはきれいな直線関係になる. 6.定量全身オートラジオグラフィー のFig. 4 Relationship between log PSL and Al thickness

   
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