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7. 研究例

7.2 イオンクラスター法による代謝物の検索と構造解析

 Butyryl-4-cinnamylpiperazine(BCP)は鎮痛薬として開発された薬物である.BCP とそのベンゼン核 H-2 標識体(BCP-d5)の等モル混合物をモルモットまたはマウスに投与し,ヒトが服用した.次に,尿中の代謝物を有機溶媒で抽出し,TMS 化した後 GC-MS に注入した.Fig. 1 は,このようにして得られたモルモット(A)及びマウス(B)尿のマスクロマトグラム(MC)である.図中には,A の MC の作成に用いた開裂イオンの構造式と m/z 値をまとめた.図示したように,トータルイオンモニタリングでは多くのピークが現れるが,鍵になる開裂イオンの m/z で作成した MC 上に重なりが認められない GC ピーク(例えば,A のスキャンナンバー 39,43,65 など)は除外し,薬物由来の GC ピークとしてモルモットでは c〜k,マウスでは a,b,c,g,h,l,m,ヒトでは c,h,l の合計13 個を確認した.なお,普通の GC-MS 分析では見逃してしまうような小さなピーク,例えば d,f,i,j,k なども MC 上の重なりによって確実にピックアップできるのはこの方法の特徴である.次に,それぞれの GC ピークの頂点に相当する MS を精査することにより代謝物の化学構造を推定し,そのうちの一部は合成標品との比較により同定した.この場合,イオンクラスターの現れる位置及びイオンクラスターの間隔から非標識体または標識体を単独に用いた場合に比べ,化学構造についてはるかに多くの情報が得られた.
 次に,一例としてピーク l の構造解析について述べる.Fig. 2 は ピーク l に相当する MS である.最高質量数 390(393) は BCP の M+ よりも 118 大きい.118 は OTMS + OCH3 の質量数に相当する.また,イオンクラスターの間隔が 5 から 3 に縮まったことは,これら 2 つの置換基がベンゼン核に導入されたことを強く示唆する.これらの事実から図中に示した化合物を合成し,比較したところ保持時間,MS が一致した.類似の方法でほかの代謝物の構造も決定した.
S. Morishita, S. Baba, Y. Nagase: J. Pharm. Sci., 67, 757(1978).

 Isopropylantipyrine (IPA) は,イオンクラスター法を巧みに使って代謝物の構造解析をした好例である.IPA の場合,構造解析に有用な特異的開裂イオンに乏しく,IPA を単独投与して,代謝物の構造を推定することが困難であった.IPA はフェニル基と 3 種類 4 個のメチルを持っている.五郎丸(現,福山大学薬学部長)は,フェニル基を H-2 標識した d5体,ピラゾロン骨格に結合しているメチル基を標識した 2 種類の Cd3 体及びイソプロピル基のメチル基を標識した d6 体を合成した.まず,IPA:IPA-d5 の等モル混合物をラットに投与し,イオンクラスターを指標にして13 個の代謝物を検出した.次に,IPA と各メチル基の H-2 標識体の等モル混合物を投与し,各代謝物ピークにおける分子イオンを検討した.IPA はベンゼン核の水酸化とメトキシル化,メチル基の水酸化とそれに続く脱離等,多種多様な代謝反応を受ける.しかし,これらの反応は,分子イオンの m/z 値及びイオンクラスターの間隔の変化となって現れることに基づいて,検出された全ての代謝物の構造を解析した.
T. Goromaru, H. Matsuura, T. Furuta, S. Baba: Chem. Pharm Bull., 32, 3179(1984).

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