RLGlogo2

4. マイクロプレートラジオルミノグラフィーとその Radio HPLC への応用

4.1 マイクロプレートラジオルミノグラフィーの検出特性

 RLGの検出特性に関しては,3.1 RLGの検出特性で詳しく解説したので,ここでは本法に関わる事項についてのみ述べる.

 幾何学的効率
 幾何学的効率(Fg)は,ウエル内の試料が IP(=ウエルの開口部)を望む立体角で,GM 計数管のFg(2)と同じように論ずることができる.ウエルの半径を r,ウエル内の測定試料の中心点からIPの感光面までの距離を h とする.この点からIP を望むFgは式 1 で近似される.この式で算出された値に,線源がウエル底面に広がっていることに対する補正係数(=0.79)を掛けて得られた値が Fg である.現在,供給されているマイクロプレートは48穴で,ウエルの r は 5.7 mm,深さは 5.0 mm,Fg は 0.135 になる.

 式 1

 測定試料調製法には放置乾燥法と凍結乾燥法がある.放置乾燥により作製された測定試料では,試料の液量に関係なく,h は 5.0 mm と見做して差し支えない.これに対して,凍結乾燥により作製された測定試料(液体の形が完全に保持されて乾燥されたと仮定して試料の中心点からIP表面までの距離をhとする)では h は試料の液量に応じて 5.0 mm より小さくなり,それだけFg は高くなる.ちなみに,300μl の液体試料を放置乾燥法及び凍結乾燥法で調製した測定試料の Fgはそれぞれ 0.135,0.188である.実際の測定例については試料の調製の項で述べる.
 Fg は h/rが小さくなればなるほど高くなる.これを小さくするためウエルを浅くすると採取液量が制限されるほか,試料調製時に隣接する試料と相互に混合するなどの事故も起こる.ウエルの半径とその深さの組合せで色々なマイクロプレートが考えられたが,ユーザーの要望に最も広く応えられるものとして,ウエルの深さを 5.0 mm,底面積を100 mm2 にした 48 穴マイクロプレートをとりあえず供給することにした.このマイクロプレートは液量 200-400μl の試料に対応できる.24穴のマイクロプレートで同じ深さのマイクロプレートを作れば,Fg は0.175 に向上し,しかも自己吸収(試料量が同じならば)も小さくなるのでプラズマや尿などをより高感度で測定できる.

 β線の吸収に関連する現象
 C-14は代表的な軟β放射体であるので自己吸収を強く受ける.3.1 RLGの検出特性にはC-14自己吸収補正曲線の一例を挙げた.
 本法では,自己吸収率(Fs.ab)は計算によってまたは補正曲線によっても補正できるが,実際にはその必要はない.測定試料と同じ組成の non active 試料に既知量の放射能(Fs.abを無視できる比放射能の)を添加し,これを標準試料として比較測定すれば目的を達する(外部標準法).尿やプラズマでは試料ごとに厚みが異なっている可能性がある.この場合には,測定試料を2系列作成し,一方に内部標準として既知量の放射能を加え,この系列のPSL 上昇量から他の系列の net PSL を算出できる(内部標準法).
 ここで,測定試料は徹底的に乾燥しなければならないことを強調しておく.外見上は全く気付かない,例えば1 mg の残留水分もその自己吸収によって PSL値を 10 % 以上も低下させてしまう.したがって,測定試料は乾燥処理終了後よく効いたデシケータ中で少なくとも一夜乾燥することを鉄則とすることをお勧めする.
 ウエル底の測定試料とIP の感光面の間には 5.0 mm の空気層 (0.6 mg/cm2),IP の放射能汚染を防止するために敷くルミラー膜 (0.5 mg/cm2)及び IP の保護膜(比重 1.4 として,1.4 mg/cm2)が存在する.これらを合計するとその厚みは 2.5 mg/cm2 に達する.すなわち,この吸収による分(C-14の吸収曲線より推定すると,約 50 %)だけ IP の感光面に到達するβ粒子の数は少なくなっているはずである.しかしながら,すべての測定試料が同じ吸収損失を受けることになるので,これは誤差の要因にはならない.この損失とFgを考慮すると,1 Bqの C-14 を含む自己吸収ゼロの測定試料を24時間露光した場合,約 5800 個のβ粒子がIP の感光面(IPの表面ではない)に到達していることになる.このことを記憶しておくことは,IP の感光面に到達するβ粒子数の統計変動を見積もるのに有益である.
 C-14 以外の核種についても簡単に触れておく.H-3(0.0186 MeV)の最大飛程は 0.6 mg/cm2 で,これは標準状態にある空気層 5 mm に相当する.すなわち,H-3 は C-14 用マイクロプレートそのままでは測定できない.最近,マイクロプレートのウエル相当部分に窓を持つスペーサーをつけ,ヘリウム気流中で H-3 用 IP に露光することによって,この核種も IP に接触することなく測定できること,その場合の検出限界は 1.0 Bq前後であることを明らかにした.しかしながら,自己吸収が著しいのでこの核種のRLG による定量は諦めた方が賢明である.S-35 (0.167 MeV),P-33(0.249 MeV),Ca-45(0.257 MeV)などは C-14 とほぼ同じエネルギーレベルのβ線を放射するので,C-14 用マイクロプレートがそのまま使用できる.これに対して,P-32(1.71 MeV)はエネルギーの高いβ線を放射する.すなわち,この場合にはβ線はウエル側壁を透過し,著しいクロストークを起こすのでこのマイクロプレートでは測定できない.P-32 は,プラスチック皿にとり,一定間隔に,これと同サイズの穴を穿った真鍮板(シールドアダプター)へ埋め込んで露光すれば制動放射線を排除して,極めて高い感度で測定できることを明らかにした(3).

 クロストーク現象
 最近,多数の試料を同時に測定できる計数装置が珍重されている.これらの装置は,ある試料の近隣試料の計数値に及ぼす影響,クロストークを念頭においた上で使用されるべきである.
 C-14 を本法で測定する際,クロストークが起こる原因としては,乾燥処理操作における放射能汚染,斜め上方向に放射されたβ線がウエル側壁を通過中に発生する制動放射線,及び BAS で解析時に発生するフレアの3つが考えられる.
 マイクロプレート乾燥機の開発に当たって,この問題を詳細に検討した(4).マイクロプレートの中央のウエルに100 Bq C-14(線源ウエル)をとり,乾燥処理した.この乾燥機では,マイクロプレートをホットプレートの上に載せ,側面から微風を送る機構になっている.クロストークの原因が乾燥時の放射能汚染にあるなら,風下側のウエルのPSLbg がより高くなり,制動放射線にあるなら周辺4つのウエルのPSLbgが同じように高くなるはずである.実際には,BAS による解析時の主走査軸に沿った隣のウエルにのみわずか(0.12-0.13 %)ではあるが,PSLbg の上昇が見られた.以上の結果から本法におけるクロストークの主因はフレア現象に起因すること,クロストークは軽微であるので問題にしなくても良いと結論した.

   
章の目次へ 次へ
Home 略字表