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12. 低バック液体シンチレーションカウンタのマイクロドージングへの応用

4.マイクロドージング試料の14C 量を精確に量るために

計算式と内部標準添加法
MDでは,14C標識体の投与量が動物実験の場合に比べて著しく低いので,試料サイズを大きくしなければならない.その結果,クエンチングを強く受けた,BGの高い試料を扱わなければならなくなり,BGの変動が精度により大きな影響を及ぼす.
LSCにおいて,放射能を表す壊変率(disintegration per minute, dpm)は,試料の計数率(counts per minute, cpm),計数効率(Eff),自然計数(BG)から次式で算出されている.AMSでも本質的にはこれと同形の式が用いられている.
     dpm =  (cpm - BG)/Eff
この式で,BGは放射性同位体無添加試料のcpmである.Effは既知量の放射性同位体を添加した試料のcpmから求められている.この式は,一連の計数試料は同じBGで,同じEffで計測されていることを前提にしているが,低レベル放射能の測定ではこれらの2つが微妙に変動し,測定精度に大きな影響を及ぼしている可能性があることを認識していなければならない.
試料ごとのEffを, より精確に評価する方法として内部標準添加法を提案する.その骨子は,試料を2系列作成し,一方の系列には比放射能の高い(すなわち,クエンチングレベルを変えない量の)1 Bqの14C(内標)を添加し,2系列を計数し,内標を添加した系列のcpmの増加値から試料ごとのEffを評価することである.自動分注機を使用すれば2系列作成に伴う作業量の増加も問題にならない.内部標準添加法を容易に適用して試料ごとの計数効率を精確に校正できることが,AMSに対するLow BG LSCの大きなメリットの1つである.

BGの変動とその補正
より厄介なのはBGの変動である.尿5 mL を試料として, BG値の日内変動,日間変動,個人差及び計数効率の変動を研究した(8).次にその概略を紹介しておく.
標準的な試料調製法と計数処理法 5 mLの尿を20mLポリエチレンバイアルに5個ずつとり,エコシンチウルトラ15 mLを混合した.そのうちの1個には1Bqの14Cを添加した.装置自身の計数(machine noise)を調べるために5mLの水及び尿のESCRと同じ程度になるように5mLの水にメチルオレンジを添加した試料(mock urine)を同様に調製した.100分間計数した.1Bq14Cを添加した試料の計数から各グループのEffを求め,最適ウインドウを設定した.
5名の成人男子がボランティアとして参加した.Fig. 6に示したタイムスケジュールに従って採尿を行った.

Fig6

Fig. 6 Sampling time schedule for the variation studies

次に研究結果の一部を紹介しておく.
Fig.7は,ボランティアAの尿を用いて日内変動を検討した結果である.計数は,14Cの最適ウインドウ及びBウインドウで行った.なお,ESCR値は両ウインドウの計数値に共通であるので,そのSDはBウインドウで求められた計数にのみに付した.
14C最適ウインドウで計数して得られたcpmは,Bウインドウで計数して得られた値よりもいずれも著しく低く,しかもそのSDも際立って小さいことは注目に値する. n=4で得られたBGのSDは,この図では示せないほど小さいので,cpm±SD /5mL(early morning,morning,afternoon,evening urineの順)の値を挙げておく.それぞれの値は 4.93±0.23,5.32±0.20,6.15±0.31,4.39±0.26である.Bウインドウで得られた計数とESCR値の間には明確な直線関係が成立している.最適ウインドウで得られた計数でも,同様な傾向が認められるが,両者の関係はBウインドウの場合ほど明確ではない.この実験結果は,尿試料は強度のクエンチングを受けており,Bウインドウには40Kのパルスが大量に流れ込み,14Cとして計数されていること,従って最適ウインドウで計数することの重要性がここでも確認された.

Fig7

Fig. 7 Intra-day variation of BG counts and ESCR
(5 mL of volunteer A urine, n=4)

Fig. 8は,検量線における個人差を検討した結果である.本検量線において,aは各ボランティアの試料を最適ウインドウで計数した場合の計数効率であり,bはBG計数である.aの個人差は小さいが,bには無視できない個人差が見られることは重要な知見である.

Fig8

Fig. 8  Linearity between 14C radioactivity and counting rates

Fig. 9には,14C dpm/mLで表示された,ヒト尿内因性BG値における日内,日間,個人間の,3つの変動の大きさを一括した.14Cを最適ウインドウで計数した場合のこれらの変動はいずれも小さく,いずれもMD研究の大きな障害にはならないことが分かった.
Fig. 9において5mLの水を試料として14Cの最適ウインドウで読み取った計数(machine noise, 2.52±0.07 cpm/5mL)のSDが極めて小さいことは注目すべきことである.尿試料では,尿によるクエンチング,内因性14C及び14Cの最適ウインドウに流れ込んだ40K由来の計数など,計数を変動させる多くの要因が含まれている.machine noiseは,これらの変動要因のない状態で計数されている.この知見は, HPLCのオフライン計数にLow BG LSCを適用した場合に極めて高い感度が期待できることを示唆している.この場合にはフラクション全量をそのままオフライン計数できるからである.

Fig9

Fig.9 Three types of variation in BG radioactivity of human urine (using optimal window for 14C).

本図から明らかなように,尿中内因性14C放射能濃度は比較的一定(1.4 dpm/mL前後)である.更に,この中身を考えてみる.1.4 dpm/mLには機械のノイズが含まれている.ノイズの値としては水ではなく,尿とクエンチングレベルを同じにしたmock urineの値(0.7 dpm)使う方が合理的である.この貢献を差し引いた残りの約0.7 dpm/mLが尿中内因性14C + (14C最適ウインドウに流れ込んだ)40Kの計数ということになる.尿中内因性40Kの影響をできるだけ低減するためには,試料を 14Cの最適ウインドウで計数することが極めて重要である.40K パルスの 14Cの最適ウインドウへの流れ込み率を補正することによって更に精確なBG評価ができないか検討したいと考えている.

全体の結論を述べる.尿中の14CのBG値はほぼ一定で,一定のEffで計数されている.従って,全試料に対して1つの尿試料から求めたBGやEffを使っても大きな誤差にはならない.しかし,ボランティアごとにBG試料を調製することやEffを求めることは時間的にも経費的にも大きな負担にならないので,可能な限り誤差要因を減らすためには,14C標識薬物投与に先立ってボランティアごとに採取された同一時間帯の尿をBGとし,ボランティアごとに求めたEffを使うことを勧める.


   
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