とうやく394号(2012年5月号)学術欄

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「日本薬学会教育賞を受賞して」

 東京薬科大学 学長 笹津 備規(大18)



 平成24年度日本薬学会教育賞を受賞し、身に余る光栄と思っております。 私の受賞理由は、6年制薬学教育の立ち上げから、新薬剤師国家試験のモデル問題作成までを評価していただいたと伺っております。 受賞講演の概要を紹介させていただきます。
 薬剤師養成6年制問題の議論が始まった平成12年当時、欧米では4年間の大学教育で、しかも実務実習を受けなくても薬剤師国家試験が受けられる国はありません。 アジアにおいてもほとんどの国が6年制か7年制でした。当時、グローバリゼイションが叫ばれ、医師免許、薬剤師免許の国際化の問題が出てまいりました。 まず、日本の医師は実務教育が足りないと海外から指摘され、そこで、日本の医学教育改革がはじまったと聞いております。
 平成13年3月、医学・歯学教育の在り方に関する調査研究協力者会議から、「21世紀における医学・歯学教育の改善方策について ― 学部教育の再構築のために ― 」という報告書が発表されました。 前文に述べられている「今後の医学・歯学教育の目指すべき目標」として、(1)患者中心の医療を実践できる医療人の育成、(2)コミュニケーション能力の優れた医療人の育成、(3)倫理的問題を真摯に受けとめ、適切に対処できる人材の育成、(4)幅広く質の高い臨床能力を身につけた医療人の育成、(5)問題発見・解決型の人材の育成、(6)生涯にわたって学ぶ習慣を身につけ、根拠に立脚した医療を実践できる医療人の育成、(7)世界をリードする生命科学研究者となりうる人材の養成、(8)個人と地域・国際社会の健康の増進と疾病の予防・根絶に寄与し、国際的な活動ができる人材の育成でした。 この目標は全て薬学教育改革の目標に繋がってまいりました。
 医学教育改革の流れをうけて、薬学教育改革もせざるをえない状況になってまいりました。 厚生労働省、文部科学省、国公立大学薬学部、私立薬科大学協会、日本薬剤師会、日本病院薬剤師会からなるいわゆる「当時の6者懇」によって薬剤師養成問題が長いこと話し合われてまいりましたが、何時までたっても、結論が出ません。 この6者懇による6年制問題の混乱を回避するために、日本私立薬科大学協会は、当時の昭和大学薬学部長の富田基郎先生に「薬剤師養成モデルカリキュラム」を作成するように依頼いたしました。関東の10大学から各1名の委員が出て作業が始まりました。私はこの最初の10人の1人に入れていただきました。 作業は、平成12年8月から始まり、平成13年8月までに16回、18日間の作業部会と、病院薬剤師会との合同委員会が開催されました。各科目ごとの拡大作業部会に関しては、各大学を会場として開催回数も多数にわたりました。 この1年間は土曜日、日曜日を含む全ての休みの日はカリキュラム作成に関わっていたような気がいたします。当時は、 もう二度とあの作業には参加したくないと思っておりました。
 平成13年8月に、日本私立薬科大学協会・薬剤師養成カリキュラム検討委員会は「薬学教育モデルカリキュラム(案)」を提示いたしました。 この「薬学教育モデルカリキュラム(案)」の提示に呼応して、同年9月、国公立大学薬学部長会議教育部会から「薬学モデル・コア・カリキュラム(案)」が提示されました。 この両案のすり合わせ作業をするために、同年12月に日本薬学会が主催する「薬学教育カリキュラムを検討する協議会」が発足いたしました。 平成14年8月31日に 日本薬学会「薬学教育モデル・コアカリキュラム 薬学教育実務実習・卒業実習カリキュラム」が発表されました。 私はこの日本薬学会「薬学教育カリキュラムを検討する協議会」にも協議会メンバー、ユニットチーフとして参加いたしました。 このように、私は日本私立薬科大学協会「薬学教育モデルカリキュラム(案)」の作成時から、日本薬学会「薬学教育モデル・コアカリキュラム」作成まで関与してまいりましたので、平成15年11月に日本私立薬科大学協会が「教育賞」を授与した9人のうちの1人にしていただきました。
 文部科学省は、薬剤師養成6年制問題をさらに前進させるために、平成14年10月に「薬学教育改善協力者会議」を設置いたしました。 この協力者会議では、医療系以外の委員が多かったので、「薬剤師養成に、本当に6ヶ月もの実務実習は必要なのか」という議論がでてまいりました。 そこでまた、カリキュラムを作ったメンバーと日本薬剤師会および日本病院薬剤師会の代表が呼び集められました。 「薬学教育改革充実に関する調査研究協力者会議・実務実習モデル•コアカリキュラムの作成に関する小委員会・作業部会」という作業部会が作られ、「実務実習方略」を作る作業が行われました。 私はこの作業にも参加させられました。平成15年12月3日付けで、小委員会報告が発表されました。このような薬学教育の改善に向けた長い議論の過程を経て、平成16年2月、新しい薬学教育制度への改革が中教審答申に示されました。 そして、薬剤師国家試験受験資格を得ることができる課程は6年制とすることが提案され、学校教育法や薬剤師法の改正などを経て、平成18年4月の入学生から、6年制薬学教育制度が始まりました。
 中教審答申では、「実務実習の受け入れ体制・指導体制の整備」、「共用試験の実施」、「第三者評価の実施」が強くうたわれておりまた。 このため平成22年に開始される長期実務実習に向けて「薬学共用試験の導入」が急務となりました。 平成17年から、「薬学共用試験センター」の立ち上げが始まりました。 私は、「薬学共用試験センター」の設立、「広報委員会・副委員長」、「CBT問題委員会・委員」、「薬学共用試験センター報告書」の編集校正等に従事してまいりました。
 さて、平成20年になり、第1回共用試験の準備も整ってきましたので、後は定年退職に向けて、研究の整理でもすればよいかなと思っていた時に、厚生労働省から、新薬剤師国家試験のモデル問題作成に関する研究会の座長をやれとのお話がありました。
 平成21年度厚生労働科学研究費補助金 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス総合研究事業「薬学教育6年制に対応した国家試験の円滑な実施のための問題作成の在り方に関する研究」というのが、平成21年4月に始まりました。 新薬剤師国家試験に関しては、平成19年6月に設置された「薬剤師国家試験出題制度検討委員会」により、「必須問題」「一般問題(薬学理論問題)」、「一般問題(薬学実践問題)」の3つの出題区分とする。 出題分野は「物理」、「化学」、「生物」、「衛生」、「薬理」、「薬剤」、「製剤」、「病態・薬物治療」、「法規・制度・倫理」すると決まっておりました。 そこで、各分野からそれぞれ1名の研究分担者を選任いたしました。 さらに、各研究分担者が病院や薬局等において薬剤師実務に従事している者の中から、研究協力者を選任し、複数の研究協力者により「薬学実践問題」の作成に取り組みました。 モデル問題を作成するにあたって、「薬学実践問題」は「実務」の領域に係る実践的な資質と、その基礎を成す「物理・化学・生物」、「衛生」、「薬理」、「薬剤」、「製剤」、「病態・薬物治療」、「法規・制度・倫理」の各分野との「複合問題」とすることを決定しました。 この「複合問題」の作成は、過去問の無い初めての試みでしたので、「複合問題のモデル問題(案)」ができたのは、平成22年1月でした。薬剤師国家試験出題制度検討会委員の先生も参考人として出席し、各研究分担者が担当分野のモデル問題について発表し、討論を2日間にわたり行いました。 全ての分野で作り直しという結論になりました。平成22年度は、「必須問題」、「一般問題(薬学理論問題)」に関する、モデル問題を作成いたしました。 また、私の研究班の下に、「新たな協力者グループ会議」を設置して、「国家試験問題の円滑な作成プロセス構築のための検討」を行いました。
 そして、第1回新薬剤師国家試験は、3月3日(土)と4日(日)に実施されます。 発表は3月30日の午後2時です。この原稿を書いている時には、私は結果を知りません。 本学の卒業生は、全員合格して欲しいと祈っております。
 最後に、各種報告書の作成や研究会の準備などへの協力、また私の不在によりご迷惑をかけた東京薬科大学•病原微生物学教室のこれまでの教室員に心から感謝いたします。


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